1 事故状況
信号機の設置されていない交差点における歩行者と自動車の衝突事故です。歩行者である依頼者が、自動車が停止線で停止していたため横断を開始したところ、突然自動車が動き出して左折を開始したため、自動車左前部と歩行者が衝突したというものです。
2 事故後の経過
⑴ 治療費支払いの打ち切りとその後の対応
依頼者は、保険会社の代理人弁護士からの連絡で、事故から約3週間で治療費の支払いの打ち切りを告げられました。驚いた依頼者は、すぐに当事務所へ相談に来られました。
自動車対歩行者の衝突事故であるにもかかわらず、わずか約3週間で治療費支払いの打ち切りを告げてくることに驚きましたが、まだ痛みが残っているという依頼者に対して、保険証を利用して治療を継続(※1)することをアドバイスしました。
⑵ 債務不存在確認訴訟の提起
事故から約5か月で依頼者の治療が終了したため、相手方加入の自賠責保険会社に対する被害者請求の準備を行っていました。そうしたところ、事故相手より債務不存在確認訴訟を提起されました。
そこで、当方より、約5か月の治療を前提とする損害賠償請求訴訟を提起しました(反訴提起)。
⑶ 自賠責保険の決定
その後、被害者請求に対する自賠責保険の決定が出ましたが、以下の理由により、事故と治療の因果関係が認められないとして、保険金は支払わないというものでした。
【理由】
①事故当事者双方の説明が食い違っている。
②依頼者の説明を前提としても、道路上に転倒していない。
③外傷性の異常所見が認められない。
3 訴訟経過
訴訟において自賠責保険の上記認定結果も証拠として提出されましたが、当方より以下の反論を行いました。
【反論】
① 当事者双方の説明が食い違うことを理由に因果関係を否定することはできない(事故当事者双方の事故状況に関する供述が食い違うことはままあります)。自賠責保険の調査は、双方当事者に対する書面での事情聴取のみであり、信用性が高くない。
② たとえ低速であっても、自動車と生身の身体が衝突した際の衝撃は大きいため、道路上への転倒がなくとも、頸椎捻挫などの傷害を負うことは十分考えられる。
③ 頸椎捻挫については、異常所見が認められないことがしばしばある。
双方の主張がほぼ出し尽くされ、尋問以外の証拠調べが終わり、残すは尋問という段階で、裁判所より和解案が提示されました(※2)。和解案の内容は、約3か月の治療の必要性を前提とするものでした。
依頼者が、尋問の負担を回避し、早期に解決することを選択されたため、当方は和解案に応じることとしました。相手方も、裁判所が提案した和解案をほぼそのまま受け入れることを承諾したため、裁判上の和解が成立しました。
4 本件事案の分析
自賠責保険に事故と治療の因果関係を否定されること(いわゆる受傷否認)はあまりないですが、自賠責保険に因果関係を否定されたとしても諦めないことが大切だと感じました。
自賠責保険による事故状況の調査は、事故当事者双方が行う書面による回答に基づいて行われます。しかし、訴訟における尋問とは異なり、相手方からの反対尋問も経ていないため、その信用性は低いものだと考えます。自賠責保険の決定に対しては異議申し立てを行うこともできますが、上述のとおり調査手続の手続上の限界があるため、私としては、訴訟において裁判所の判断を仰ぐべきだと考えています。
事故相手が加入する任意保険会社や自賠責保険会社に事故と治療の因果関係を否定されたような場合、交通事故事件について研鑽を積んでいる弁護士へ相談されることをおすすめいたします。
当事務所は、弁護士保険未加入の方でも、交通事故の相談については初回相談料無料で相談を受け付けていますので、一度相談されることをおすすめいたします。
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