交通事故⑩ 傷害慰謝料・後遺障害慰謝料 

1 傷害慰謝料

⑴ 傷害慰謝料とは

傷害慰謝料とは「入通院慰謝料」とも呼ばれるもので,交通事故によって負ったけがの治療のための入通院期間に応じて支払われる賠償金のことです。交通事故によって怪我を負い,入院や通院を余儀なくされたことについて支払われる慰謝料(精神的損害に対して支払われる賠償金のこと。)です。

⑵ 傷害慰謝料の基準

傷害慰謝料の基準として,いわゆる「赤い本」と呼ばれる,公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が編集・発行する文献に掲載されている算定表が存在します。この算定表は,これまでの交通事故訴訟に関する裁判例を集積して作成されたものであり,裁判所も基本的にこの表に従って慰謝料を算定していると考えられています。

算定表には「別表Ⅰ」と「別表Ⅱ」の2種類ありますが,別表Ⅰの慰謝料の方が高額となっています。算定表の利用方法について,以下のルールなどが規定されています。

○ 基本的には「別表Ⅰ」が用いられるが,「むち打ち症で他覚所見がない場合等(「等」は軽い打撲・軽い挫創(傷)の場合を意味する。)は入通院期間を基礎として別表Ⅱを使用する。

○ 通院が長期にわたる場合は,症状,治療内容,通院頻度をふまえ,実通院日数の3.5倍程度(別表Ⅰを利用する場合。別表Ⅱを利用する場合は3倍程度。)を慰謝料算定のための通院期間の目安とすることもある。

この別表Ⅰと別表Ⅱの算定表が傷害慰謝料算定のベースとなりますが,それぞれの事案ごとに具体的な金額は変動しうることになります。

2 後遺障害慰謝料

⑴ 後遺障害慰謝料とは

後遺障害慰謝料とは,交通事故により後遺障害を負った場合に認められる慰謝料です。

⑵ 慰謝料の基準

具体的な後遺障害慰謝料の金額について,自賠責保険の基準と,上述した「赤い本」の基準の2つの基準が存在します。赤い本の基準は,一般的に裁判所が認定する金額であり,自賠責保険の基準よりも高額となっています。交渉段階においては,加害者側の保険会社は赤い本の基準の7~8割程度を提案してくることが多いようです。これは,訴訟を提起して判決を得るまでの労力と時間を節約できることと引き換えに,赤い本基準からの減額を求めてきているのだと考えられます。

【自賠責保険基準(自賠法施行令別表2)】

1級:1,150万円,2級:998万円,3級:861万円,4級:737万円,5級:618万円,6級:512万円,7級:419万円,8級:331万円,9級:249万円,10級:190万円,11級:136万円,12級94万円,13級:57万円,14級:32万円

【赤い本基準】

1級:2,800万円,2級:2,370万円,3級:1,990万円,4級:1,670万円,5級:1,400万円,6級:1,180万円,7級:1,000万円,8級:830万円,9級:690万円,10級:550万円,11級:420万円,12級:290万円,13級:180万円,14級:110万円

⑶ 近親者慰謝料

重度の後遺障害の場合には,近親者にも別途慰謝料請求が認められることがあります。最高裁判所は,「死亡に比肩する(肩を並べる)ような精神的苦痛を受けた場合」において,近親者にも慰謝料請求権が認められるとしています。

11級の後遺障害で近親者の慰謝料請求権が認められた裁判例もありますが,一般的には歩行障害,高次脳機能障害など,介護の負担がそれなりに大きくなることが見込まれるようなケースに限られるようです。

3 さいごに

傷害慰謝料と後遺障害慰謝料のいずれについても,一般的な算定基準は存在していますが,個別の事案ごとに具体的な金額は変動しうるものです。また,加害者加入の任意保険会社は,一般的に裁判所が認定する(であろう)金額(上記赤い本基準)を下回る金額を提示してくることが一般的です。

そこで,任意保険会社から提示された慰謝料の金額に納得できない場合には,一度,交通事故事件に精通した弁護士に相談されることをおすすめいたします。

以上

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