脊髄損傷でお悩みの方へ 

脊髄損傷(脊髄障害)について

1.脊髄の仕組み

脊髄は,脳から繋がる中枢神経で,脳の指令・信号を末梢器官に伝達し,末梢からの情報・信号を脳に伝達する役割を果たしています。また,その高さ(高位)によって,頭側から,頸髄(C),胸髄(T),腰髄(L),仙髄(S),尾髄(Co)に大別されます。

2.脊髄損傷による後遺障害

脊髄損傷による後遺障害等級は,原則として,身体所見及びMRI,CT等によって裏付けることのできる麻痺の範囲と程度,並びに,介護の要否及び程度により認定されます。

⑴麻痺の範囲

・四肢麻痺 両側の四肢に生じる麻痺
・片麻痺  一側上下肢の麻痺
・対麻痺  両下肢又は両上肢に生じる麻痺
・単麻痺  上肢又は下肢の一肢のみに生じる麻痺

⑵ 麻痺の程度

ア 高度の麻痺

障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性がほとんど失われ,障害のある上肢又は下肢の基本動作(下肢においては歩行や立位,上肢においては物を持ち上げて移動させること)ができないもの

イ 中等度の麻痺

障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が相当程度失われ,障害のある上肢又は下肢の基本動作にかなりの制限があるもの

ウ 軽度の麻痺

障害のある上肢又は下肢の運動性・支持性が多少失われており,障害のある上肢又は下肢の基本動作を行う際の巧緻性及び速度が相当程度損なわれているもの

⑶後遺障害等級

脊髄損傷による後遺障害等級は,以下の7つです。
なお,自賠責の認定実務では,3級に至らない程度の軽度の四肢麻痺や,5級に至らない程度の軽度の対麻痺であっても,直ちに12級とするのではなく,麻痺の程度及び動作制限の程度に応じて,四肢麻痺では5級,7級,9級を,対麻痺では7級,9級を認定することができることになっています。

① 別表第1の1級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの

「せき髄症状のため,生命維持に必要な身のまわり処理の動作について,常に他人の介護を要するもの」で,①高度の四肢麻痺が認められるもの,②高度の対麻痺が認められるもの,③中等度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便,更衣等について常時介護を要するもの,④中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するものが該当します。

② 別表第1の2級1号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,随時介護を要するもの

「せき髄症状のため,生命維持に必要な身のまわり処理の動作について,随時介護を要するもの」で,①中等度の四肢麻痺が認められるもの,②軽度の四肢麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの,③中等度の対麻痺であって,食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するものが該当します。

③ 別表第2の3級3号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,終身労務に服することができないもの

「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが,せき髄症状のために労務に服することができないもの」で,①軽度の四肢麻痺が認められるもの,②中等度の対麻痺が認められるものが該当します。

④ 別表第2の5級2号 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

「せき髄症状のため,きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの」で,①軽度の対麻痺が認められるもの,②一下肢の高度の単麻痺が認められるものが該当します。

⑤ 別表第2の7級4号 神経系統の機能又は精神に障害を残し,軽易な労務以外の労務に服することができないもの

「せき髄症状のため,軽易な労務以外には服することができないもの」で,一下肢の中等度の単麻痺が認められるものが該当します。

⑥ 別表第2の9級10号 神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの

「通常の労務に服することはできるが,せき髄症状のため,就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」で,一下肢の軽度の単麻痺が認められるものが該当します。

⑦ 別表第2の12級13号 局部に頑固な神経症状を残すもの

「通常の労務に服することはできるが,せき髄症状のため,多少の障害を残すもの」で,運動性,支持性,巧緻性及び速度についての支障がほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すものが該当します。また,運動障害は認められないものの,広範囲にわたる感覚障害が認められるものも該当します。

3.争点

⑴脊髄損傷自体の存否

脊髄損傷については,交通事故によって脊髄損傷を負ったか否かが争われることが多くあります。その理由は,被害者の訴える症状が,脊髄損傷の一般的知見と整合性を欠いたり,脊髄損傷の典型的な症状と一致していなかったりすることが多いためです。
このようなケースでは,当事者が主張する症状と,これを裏付ける客観的な検査所見などが重要な証拠となります。

⑵中心性脊髄損傷

中心性脊髄損傷(非骨傷性脊髄損傷で脊髄の中心部が損傷している状態)の場合は,脊柱管狭窄症などによる素因減額(被害者が元々有していた身体・精神的要因に基づく減額)が争われることも多くあります。