交通事故⑪ 過失相殺 

1 過失相殺とは

民法は,不法行為に関する章において,「被害者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の額を定めることができる。」と規定しています(722条)。この,損害賠償額算定において被害者の過失を考慮することを,「過失相殺」といいます。そして,交通事故に関する損害賠償請求においても,この過失相殺が行われることになります。

過失相殺を行うためには,被害者に責任能力(不法行為に関する責任を負う能力であり,自身の行為によってどのような法律上の責任が生じるかを認識できる能力。民法712条)までは必要なくとも,事理弁識能力(自らが行なった行為の結果,何らかの法的な責任が生じるということを認識できる能力。一般的に就学前後で備わるとされます。)は必要であると考えられています。また,不法行為が成立せずとも,被害者には何らかの不注意や落ち度が存在することが必要であると言われます。さらに,その不注意や落ち度と,損害発生や損害拡大との間に因果関係が認められることも必要とされます

2 別冊判例タイムズ38

過失相殺を行うための過失割合は,どのように決められるのでしょうか。示談交渉がまとまらなければ,最終的には裁判官の裁量によって決められることになりますが,裁判官も参考にする一定の基準はあります。その基準とは,『別冊判例タイムズ38』という文献に規定されており,そこには様々な交通事故類型毎の過失割合が定められています。

保険会社との交渉段階においても,裁判においても,基本的に『別冊判例タイムズ38』に従って過失割合が決められることになります。もっとも,『別冊判例タイムズ38』は基本過失割合のみならず,様々な修正要素についても規定しており,基本過失割合から修正が施されることもあります。

ご自身の交通事故が『別冊判例タイムズ38』のどの事故類型に該当するか,また基本過失割合を修正する要素が認められないかを検討し,過失割合の見通しを立てることが必要となります。

3 被害者側の過失

過失相殺の対象となる過失の主体は「被害者」と規定されていますが(民法722条),同条で考慮される過失には,被害者のみならず「被害者側」の過失も含まれることになります。そこで,「被害者側」の範囲が問題となりますが,最高裁判所は「被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすと見られるような関係者」としています。

少し難しい言い回しですが,これまでの最高裁判所の判断は以下のとおりです。

・ 夫が運転する車に乗っていた妻について,夫の過失を被害者側の過失として考慮(最高裁昭和51年3月25日判決)。

・ 恋人(近く婚約予定,同棲なし。)が運転する車に乗っていた被害者について,恋人の過失を被害者側の過失として考慮せず(最高裁平成9年9月9日判決)。

・ 内縁の夫が運転する車に乗っていた被害者について,内縁の夫の過失を被害者側の過失として考慮(最高裁平成19年4月24日判決)

4 好意同乗のケース

運転者の好意によって同乗していた車が事故を起こし,同乗者が怪我を負った場合,運転者の同乗者に対する賠償責任の範囲を制限(賠償金を減額)することができるかが問題となります。

一般的に,同乗者の類型に応じて,以下のとおり整理できます。

・単なる便乗,同乗型 →減額できない

・危険承知型(運転者の飲酒,無免許を知って同乗した場合など)

→減額の可能性あり(過失相殺の規定の適用・類推適用)

・危険関与型(定員超過など)

→減額の可能性あり(過失相殺の規定の適用・類推適用)

5 まとめ

追突事故のような交通事故を除き,過失割合の見通しを立てるには専門的な知識と経験が必要となります。過失割合でお悩みの方は,交通事故事件に熟練した弁護士へ相談されることをおすすめいたします。

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