交通事故⑦ 労働能力喪失期間 

1 労働能力喪失期間

後遺障害が認定されるということは,働く能力が一定割合で失われたと評価されるということですが(交通事故⑥「後遺障害逸失利益」の記事参照),働く能力が失われたと評価される期間はどの程度になるのでしょうか。

この,労働能力が失われたと評価される期間のことを,「労働能力喪失期間」といいます。

2 原則

後遺障害とは,治療によっても症状の改善が認められない段階に至って初めて認められるものです。つまり,将来にわたって症状が改善しないことが前提となっています。

そのため,原則として,労働能力喪失期間は,症状固定日(治療を継続しても,それ以上治療の効果が認められなくなった日)から,一般的に就労が可能であるとされる67歳までの間ということになります。

3 例外

⑴ むち打ち症

これまでの裁判例では,症状固定後にむち打ちの症状がなくなることがあり得ることや,慣れによって働く上での支障がなくなってくることがあり得ることなどを考慮して,12級13号のむち打ち症であれば5年,14級9号のむち打ち症であれば10年と,労働能力喪失期間が限定されることが一般的です。

むち打ち症による67歳までの労働能力喪失期間を獲得するためには,むち打ち症が実際の労働に与える支障を具体的に立証することが必要となります。

⑵ 未就労者

症状固定日においてまだ働いていない学生については,労働能力喪失期間は18歳からカウントすることになります。もっとも,被害者が大学生である場合,大学卒業予定時からカウントすることになります。

この点,大学卒業を前提とすると,賃金センサス上の基礎収入は高く設定されることになりますが,労働能力喪失期間のカウント開始が遅くなります。

⑶ 高齢者

一般的に,「67歳までの年数」と「平均余命の2分の1」のいずれか長い方を労働能力喪失期間とします。

もっとも,具体的な職業や健康状態なども考慮して判断されることになります。なお,余命は,症状が固定した年の簡易生命表を参照することになります。

⑷ 遷延性意識障害

意識障害のために寝たきり状態の被害者について,平均余命よりも生存期間(ひいては就労可能期間)を限定すべきか,という議論があります。

しかし,これまでの裁判例は,一般的に消極的な見解に立っているといえます。

4 最後に

後遺障害に関する損害の算出には専門的な知識が必要となります。

そのため,後遺障害等級の認定を受けた方は,交通事故事件に精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。

以上

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