交通事故⑥ 後遺障害逸失利益(後遺障害等級の認定及び労働能力喪失率が問題となる事案) 

1 労働能力喪失率とは,後遺障害により失われた働く能力の割合ことで,後遺障害等級毎に以下のとおり規定されています(自賠法施行令別表第1及び第2)。

1~3級:100%   9級: 35%

4級: 92%    10級: 27%

5級: 79%    11級: 20%

6級: 67%    12級: 14%

7級: 56%    13級:  9%

8級: 45%    14級:  5%

2 後遺障害等級の認定が争われるケース

⑴ PTSD

PTSDについては,以下の後遺障害等級が認定される可能性があります。

・9級10号:日常生活において著しい支障が生じる場合

・12級13号:日常生活において頻繁に支障が生じる場合

・14級9号:日常生活において時々支障が生じる場合

※ 重篤な症状が残る場合には,7級以上の認定がなされる可能性もあるとされています。

ただし,主治医の先生が診断書に「PTSD」と記載したからといって,自賠責保険の認定において,上記後遺障害等級が認定されるとは限らないため,注意が必要です。裁判例では,かなりの衝撃がある事故や恐怖感の強いものに限定される傾向にあります。

⑵ 高次脳機能障害

高次脳機能障害については,別表(自動車損害賠償保障法施行令別表)1の1・2級,別表2の3・5・7・9級の高次脳機能障害等級が認定される可能性があります。

しかし,PTSDと同様,主治医の先生が診断書に「高次脳機能障害」と記載したからといって,自賠責保険の認定において,上記後遺障害等級が認定されるとは限りません。事故後の意識障害,画像所見(CT,MRI)に加え,記憶症状・注意障害・遂行機能障害・社会的行動障害などの諸症状が認められる場合に上記後遺障害等級が認定されることになります。

⑶ 低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症と呼ばれることもあります)

低髄液圧症候群とは,事故の衝撃での髄液漏出による髄液量の減少に伴う一連の病態(特に起立時の頭痛,吐き気,めまい,耳鳴り等)であり,むち打ちとの関係で問題となることが多い疾患です。

医学的にも解明されていない部分が多い疾患であるため,診断基準そのものから争いになることがあり,立証が容易ではありません。そのため,低髄液圧症候群に対する裁判所の認定は厳しいものになります。

3 労働能力喪失率が争われるケース

労働能力喪失率は上記のとおり法令で規定されていますが,自賠責保険の認定において後遺障害等級の認定を受けたものの,将来の収入にそれ程影響を与えないとして,労働能力喪失率が争われることがあります。

⑴ 外貌醜状(がいぼうしゅうじょう)

外貌醜状とは,頭部,顔面部及び頸部のように,上肢及び下肢以外の日常露出する部位に醜状痕が残った後遺障害です。男女を問わず,外貌に著しい醜状を残す場合には7級12号,外貌に相当程度の醜状を残す場合には9級16号,外貌に醜状を残す場合には12級14号と認定される可能性があります。

被害者が,芸能人,モデル,ホステス,営業などの容姿が問題となりうる仕事に就いている場合,被害者の外貌醜状が労働に与える影響を考慮して,労働能力喪失率が認められることになります。

一方で,被害者がそのような仕事に就いていない場合(デスクワーク,工事現場での作業など),実際の収入に影響がないとのことで,労働能力喪失が認められないこともあります。もっとも,対人関係などの面で消極的になるなど間接的に労働に影響を及ぼす可能性がある場合,後遺障害による慰謝料の金額を増額させるなどの考慮が行われることがあります。

⑵ 歯牙(しが)障害

自賠責保険上,歯の補てつ(歯が欠けたり,なくなったりした場合にクラウンや入れ歯などの人工物で補うこと。)の本数により,以下の後遺障害が認定される可能性があります。

・14歯以上→10級3号

・10歯以上→11級4号

・7歯以上→12級3号

・5歯以上→13級5号

・3歯以上→14級2号

もっとも,多くの職業において,歯牙障害が労働能力に影響を与えないとされるため,上記後遺障害等級が認定されたとしても,労働能力の喪失が否定されることが多くあります。そのような場合,後遺障害による慰謝料の金額を増額させるなどの考慮が行われることがあります。

4 最後に

後遺障害逸失利益の算出の前提となる労働能力喪失率の検討には専門的知識が必要となりますし,加害者加入の任意保険会社は,一般的に低相場の示談案の提案をしてきます。そのため,交通事故により後遺障害が認められた方(認められるべきだとお考えの方)は,専門的知識を有する弁護士へ相談されることをお勧めいたします。

 

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