1 損益相殺(そんえきそうさい)とは
交通事故によって被害者に損害が発生すると共に利益が生じる場合に、被害者の損害額から得られた利益を差し引くこと(「控除(こうじょ)」といいます。)を損益相殺といいます。例えば、被害者が加害者から見舞金、公的保険給付、自動車保険からの給付などを受けた場合に問題となります。
一般的に、損害の公平な分担という目的から、このような処理が認められることになります。
2 損益相殺(控除)の対象となる給付
⑴ 自賠責保険からの給付
自賠責保険から支払われた保険金は、加害者への損害賠償請求の際には控除されることになります。
⑵ 各種社会保険給付
労災保険、国民年金法、厚生年金保険法及び公務員災害補償制度による以下の給付についても控除されることになります。
・ 労災保険における療養(補償)給付、休業(補償)給付、障害(補償)年金、障害(補償)一時金、障害補償年金前払一時金、長期傷病補償給付、傷病(補償)年金
※ ただし、後述3⑵のとおり、労災保険による特別支給金は控除されません。
・ 国民年金法による障害基礎年金
・ 厚生年金保険法による障害基礎年金
・ 介護保険給付など
(死亡事案)
・ 労災保険における遺族(補償)年金、遺族(補償)一時金、遺族(補償)年金前払一時金
・ 国家公務員災害補償法による遺族補償金
・ 国民年金法による遺族基礎年金
・ 厚生年金保険法による遺族厚生年金
・ 国家公務員等共済組合法による遺族年金など
⑶ 各種保険金
人身傷害保険及び無保険傷害保険により支給された保険金は控除されることになります。
※ 人身傷害保険金と損益相殺の関係について、詳しくは「交通事故⑭ 人身傷害保険」をご参照ください。
これは、保険代位の制度があり、保険会社が被害者に支払った保険金の限度で、被害者の加害者に対する損害賠償請求権が保険会社に移転するためです。
3 損益相殺(控除)の対象とならない給付
⑴ 見舞金など
社会的儀礼の範囲内の見舞金や香典などは控除されません。
もっとも、あまりにも高額な場合には、実質的に賠償の一部として控除されることもあります。
⑵ 労災保険の特別支給金
労災保険の特別支給金(以下参照)は、損害の填補を目的とするものではなく、代位も生じないため、控除されないとされています。
・ 休業特別支給金、障害特別支給金、傷病特別年金、障害特別年金、障害特別年金差額一時金など
(死亡事案)
・ 遺族特別年金、遺族特別一時金、遺族特別支給金など
⑶ 定額保険など
搭乗者傷害保険金、自損事故保険金、生命保険金などは、支払った保険料の対価であり、支払われる保険金の額が定額であるため、損害を填補するものではないとして控除が否定されています。
⑷ 公的給付など
身体障害者福祉法による給付、介護費用の公的扶助、生活保護法による扶助費などは、給付の趣旨や目的から控除しないこととされています。
4 損益相殺(控除)の時的限界
控除の対象となるものの中で、各種社会保険給付以外のものについては、現実に支給されたもののみが控除の対象となり、未支給分は控除の対象となりません。
一方、各種社会保険給付については、将来に渡り継続して支給されることが一応予定されているといえるため、将来支給されることが予定されているものまで控除する必要があるのか問題となります。
この点、地方公務員等共済組合法による遺族年金について、最高裁判所平成5年3月24日判決は、将来の未支給分については控除する必要がないと判断しているため、現時点においては一応の決着が付いていると考えられます。
5 過失相殺と損益相殺の先後関係
被害者に過失がある場合、過失相殺と損益相殺の順序が問題となります。
⑴ 健康保険、国民健康保険による給付
損益相殺→過失相殺の順序で処理されます。
⑵ 労災保険等による給付
過失相殺→損益相殺の順序で処理されます。
⑶ 国民年金、厚生年金、共済年金
実務上統一された見解があるわけではありませんが、一般的に過失相殺→損益相殺の順序で処理されます。
5 まとめ
相手方保険会社に対する損害賠償請求の際に、それまでに支払いを受けたどのような金銭(費目)が請求額から控除されるのかの判断は非常に重要です。この判断を誤ってしまうと、適正な賠償が得られなくなってしまうリスクがあります。
そこで、損益相殺について分からないことがありましたら、まずは交通事故事案に習熟した弁護士へ相談されることをお勧めいたします。
以 上
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