1 将来介護費(付添費)
⑴ 必要性
自賠責保険の後遺障害に関して規定する自賠法施行令別表において,介護を必要とする後遺障害として規定されているのは,別表1(神経・精神系統の障害と胸腹部臓器の障害について規定する表)の1級(常時の介護が必要な程度の障害)と2級(随時の介護が必要な程度の障害)のみです。
しかし,これらの等級以外にも,別表2の1級と2級については,一般的に将来介護費が損害として認定されています。また,別表2の3級以下の後遺障害であっても(ちなみに,別表1には1級と2級しか規定されていません),高次脳機能障害,脊髄損傷,下肢欠損及び重い下肢機能障害については,将来介護費が損害と認定されることがあります。
将来介護の必要性が認められるとして,次に,介護の主体について,近親者による介護で足りるのか,職業付添人による介護が必要であるのかが問題となります。これまでの裁判例では,近親者が就労しているような場合,平日は職業付添人による介護を認め,近親者の仕事が休みの週末などについては,近親者介護しか認めないという,2種類の介護を併用する取り扱いがなされています。
⑵ 介護期間
原則として,症状固定(療養の効果が期待できない状態となり,症状が固定した状態)時点における被害者の平均余命年数が,介護が必要な期間となります。
いわゆる植物状態や重度の後遺障害が認められる被害者について,加害者側から,平均余命まで生存できる可能性が低いとして,将来介護費が認められる期間を短期間に限定すべきと主張されることがあります。しかし,重度の合併症などにより,既に,被害者の健康状態が思わしくないなどの特段の事情がある場合でなければ,裁判において,加害者側のそのような主張は認められない傾向にあります。
⑶ 将来介護費の算出方法
交通事故賠償について規定するいわゆる「赤い本」では,原則として,職業付添人について実費全額,近親者付添人について日額8,000円が将来介護費と認定されると記載されています。もっとも,この規定が一律に妥当するわけではなく,後遺障害の内容や程度に応じて,必要とされる介護の内容を実質的に考慮して判断されることになります。
職業付添人の介護費について,最近の裁判例では,日額18,000円~2万円を認めるものも珍しくなく,2万円を超える介護費を認めるものもあります。
また,一般的な身体介護とは異なり,看視や声掛けで足りる場合には,身体介護が必要なケースよりも介護費が低く認定される傾向があります。
さらに,将来介護費そのものが,将来において必要となるであろうという一定のフィクションが含まれる損害項目であるため,金額的に控えめな認定がなされる傾向があることは否定できません。
⑷ 将来における介護態勢の変更
近親者介護が行われている場合であっても,介護を行っている近親者が67歳(一般的な就労可能年齢)に達した以降については,職業付添人による介護の必要性が認められることになります。
また,介護施設等に入所している被害者について,将来的に在宅介護を行うことを前提として将来介護費を請求する場合,在宅介護への移行の蓋然性の有無が問題となります(ちなみに,一般的に,施設入所費用よりも,在宅介護費の方介護費が高額になります)。具体的には,施設の性格(在宅介護への移行を想定している施設であるか),被害者の身体状況(医師の意見に基づく),在宅介護に向けた受け入れ体制の整備状況などを考慮して判断されることになります。
⑸ 介護保険給付との関係
交通事故被害者の将来介護について介護保険給付が見込まれる場合,将来介護費の算定について,介護保険給付を考慮(介護保険給付分を損害額から控除)することが認められるか問題となります。
この点,介護保険制度は原則として6か月毎に要介護認定を受ける制度であり,将来において現在と同様のサービスを受けることができるか不確実であるため,裁判実務においても,介護保険給付を控除しない判断がなされています。
2 将来治療費
治療を継続しても,それ以上治療の効果が認められなくなった段階のことを「症状固定」といいます。症状固定前の治療に関する費用は,相当な範囲で交通事故による損害と認定されますが,症状固定後の医療行為に関する費用は,原則として,交通事故によって生じた損害とは認定されません。なぜなら,治療の効果が認められなくなった段階以降の医療行為であり(上述の「症状固定」の概念参照),交通事故で負った怪我に対して必要な治療とは認められないからです。
しかい,例外的に将来の治療費などが損害として認められることがあります。例えば,①症状固定後も残る強い痛みについて,一時的にでも痛みを軽減するための治療(ブロック注射など),②症状の改善は見込めないものの,症状の悪化を防止するために必要となる医療行為及び③いわゆる植物状態などの重度の後遺障害を負った者の生命を維持するための医療行為(気管切開,胃ろうなどの手術)です。これらの医療行為について,その必要性と相当性が認められ,さらに支出の蓋然性が認められる場合には,将来の治療費が損害と認定されることになります。
3 最後に
将来介護費や将来治療費は損害額が高額になることが多く,適正な賠償額の獲得には専門的な知見も要求されます。
そのため,将来介護費が必要となるような後遺障害を負った被害者の方は,交通事故事件に精通した弁護士に相談されることをお勧めいたします。
以上
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