交通事故⑤ 後遺障害逸失利益(算定方法,基礎収入,問題となる症状) 

1 後遺障害とは

後遺障害とは,「傷害が治ったとき身体に存する障害」と規定されています(自賠法施行令2条1項2号)。分かりやすく言いますと,治療を継続しても,それ以上治療の効果が認められなくなった段階(症状固定)で,身体に残ってしまった症状のことを意味します。

 

2 後遺障害逸失利益とは

後遺障害逸失利益とは,事故によって生じた後遺障害による,事故がなければ将来得られるはずであった収入の減少のことを意味します。

 

事故前の収入

                              交通事故による後遺障害の発生

事故後の収入

後遺障害逸失利益

 

3 算出方法

後遺障害逸失利益の算出は,以下の計算式によって行われることが一般的です。

⑴ 就労者

基礎収入(※1)×労働能力喪失率(※2)×労働能力喪失期間(※3)の年数に対応するライプニッツ係数(※4)

※1 基礎収入については,「交通事故③ 休業損害(基礎収入の認定方法)」の記事でご紹介しています。

※2 労働能力喪失率とは,後遺障害により失われた働く能力のことで,後遺障害等級毎に以下のとおり規定されています(自賠法施行令別表第1及び第2)。

1~3級:100%     9級: 35%

4級: 92%    10級: 27%

5級: 79%    11級: 20%

6級: 67%    12級: 14%

7級: 56%    13級:  9%

8級: 45%    14級:  5%

※3 労働能力喪失期間とは,労働能力が失われる期間のことで,一般的には症状固定(治療による効果が期待できなくなった段階)から67歳までの間とされています。詳しくは,「交通事故⑦ 後遺障害逸失利益(労働能力喪失期間)」の記事(作成中)をご覧ください。

※4 ライプニッツ係数とは,長期間にわたり発生する損害(介護費用やここで説明する逸失利益など)について,一時金として賠償する際に,賠償額を算出するための係数です。要するに,将来発生するであろう損害を先行して賠償してもらうため,法定利息(2020年4月以前に発生した事故では5%,それ以降に発生した事故では3%)分を考慮して賠償額を算出するための係数となります。

⑵ 若年の未就労者

基礎収入×労働能力喪失率×(労働能力喪失期間の終期までの年数に対応するライプニッツ係数-就労可能年齢(一般的に18歳)までの年数に対応するライプニッツ係数)

 

4 事故後も減収がない場合

日本の裁判所は,一般的に,交通事故がなければ得られたであろう収入と,事故後に現実に得られる収入との差額が逸失利益であるとの見解(差額説)に立っていると言われます。

もっとも,特段の事情が認められる場合には,減収がなくとも逸失利益を認定することがあるため,厳格な差額説を採用していると断定もできません。例えば,実際に労働能力が低下しているものの,被害者本人の努力や職場の協力などにより減収が生じていないような場合において,そのような状態が長期間継続されるか不明な場合には,特段の事情ありとして,例外的に減収がなくとも逸失利益が認められる可能性があります。

 

5 最後に

後遺障害逸失利益の算出には専門的知識が必要となりますし,加害者加入の任意保険会社は,一般的に低相場の示談案の提案をしてきます。そのため,交通事故により後遺障害が認められた方(認められるべきだとお考えの方)は,専門的知識を有する弁護士へ相談されることをお勧めいたします。

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