物損事故の場合,原則として,財産上の損害の賠償に加えて慰謝料は認められません。これは,物損について本人が精神的損害を被ったとしても,その精神的苦痛は,財産上の損害の賠償を受けることによって慰謝されると考えられているからです。
但し,限定的なケースに限られますが,以下のとおり,物損に関連する慰謝料を認めた裁判例もあります。
・加害者が運転する車両と衝突し,被害者所有のセラピー犬のうち一匹が死亡し,残りの一匹が負傷した事案。当該事故により,被害者が精神的なショックを受け、病院への通院日数が増えたことが認められ,犬の死傷による精神的苦痛に対する慰謝料10万円が認められた(大阪地裁平成18年3月22日判決)。
・加害者が霊園内でレンタカーの運転操作を誤り,被害者所有の墓石等を損壊した事案。一般に,墓地,墓石等は,先祖や故人が眠る場所として,通常その所有者にとって,強い敬愛追慕の念を抱く対象となるものということができるから,そのような特殊性に鑑みて,当該事案で被った精神的苦痛に対する慰謝料10万円が認められた(大阪地裁平成12年10月12日判決)。
・午前1時40分頃,被害者が自宅3階で就寝中,加害者が運転する車両が当該自宅の1階車庫に突入し,被害者所有の車両が損傷した事案。加害者の一方的な過失による事故であること,被害者家族らは当該事故により精神的ショックを受けたと推認されること,場合によっては被害者らの生命身体に影響を与える危険性もあったことから,財産的損害の補填(車両時価額,休業損害等)に加えて,慰謝料5万円が認められた(名古屋地裁平成15年2月28日判決)。
以上のとおり,被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有する場合や人格的利益の毀損を肯定しうるような場合等には物損に関する慰謝料が認められる可能性はあるでしょう。交通事故の損害等についてお悩みの方は一度専門家である弁護士にご相談下さい。
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