1 医療扶助相当額は損害に含まれるのか
生活保護利用者が交通事故によって損害賠償金を受領した場合,治療に要した医療扶助相当額を保護課に返還しなければならないのであれば,当該医療扶助相当額は事故による損害といえますが,返還の必要がなければ損害とはいえません。
この点,過去の裁判例上(奈良地裁昭和50年3月31日判決,大阪地裁昭和60年5月24日判決)も厚生労働省の見解も医療扶助相当額については生活保護法63条に基づく費用返還義務の対象になるとして,交通事故における損害には医療扶助相当額も含まれると解されています。以上から,生活保護を利用する交通事故の被害者は,事故における治療に要した医療扶助相当額について,加害者に請求していくことになるでしょう。
2 返還額について
生活保護法63条は,「その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と規定しています。この規定にあるとおり,交通事故の場合も,返還の対象となるのが既に受給した保護費の範囲にとどまることは当然のことながら,必ずしも交通事故発生後に受け取った生活保護費全額を返還すべきとはされていません。
これについては,保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については,一定の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いになっています。例えば,当該収入があったことを契機に保護から脱却する場合には,今後の生活設計等から判断して当該世帯の自立更生のために真に必要と実施機関が認めた額について,本来の返還が必要な額から控除して返還額が決定されることになります。
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