1 はじめに
交通死亡事故が起きたときに,慰謝料を請求することが出来るのは,被害者とどういった関係にある人なのでしょうか。
ここでは,①亡くなった被害者自身の慰謝料請求権を相続した相続人が請求する場合と,②被害者と近しい立場にあった人が,独自に慰謝料を請求する場合に分けて説明します。
2 被害者の慰謝料請求権の相続
交通死亡事故が起こった場合,被害者本人に慰謝料の請求権が発生して,これが相続人に相続されます。実際に加害者に請求をするのは相続人です。
誰が相続人となるのかについて,被害者遺族の相続分(相続割合)は,民法の原則では以下のように定められています。
(1)被害者に配偶者と子がいる場合
配偶者が1/2,子が1/2(子ども同士では等分)
(2)被害者に配偶者と親がいる場合
配偶者が2/3,親が1/3(親同士は等分)
(3)被害者に配偶者と兄弟姉妹がいる場合
配偶者が3/4,兄弟姉妹が1/4(兄弟姉妹同士は等分)
(4)被害者に配偶者がいない場合
子がいれば子,子がいなければ親,子も親もいなければ兄弟姉妹が等分
遺産分割協議において上記と異なる相続分の合意しない限り,相続人各人がそれぞれの相続分に応じた慰謝料請求をすることが出来ます。
3 近親者固有の慰謝料請求
民法711条は,被害者が死亡した場合に,被害者の父母,配偶者または子は,加害者に対して,慰謝料を請求することが出来ると定められています。
これは,父母,配偶者,子といった被害者と近しい関係にある人には,被害者が亡くなったことによる精神的損害が発生するものと考えて,固有の慰謝料の請求ができるとした規定です。
ただし,被害者が亡くなった場合に固有の慰謝料を請求できるのは,民法711条に定める父母,配偶者,子に限られません。
判例(最判昭和47年12月17日)は,「被害者との間に民法711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し,被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の類推適用により,加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうる」と判断しました。
その結果,内縁の配偶者,未認知の親子,兄弟姉妹,祖父母,孫などについても,場合によっては,慰謝料請求を認めている裁判例も出ています。
ただし,実際には,①同居の有無,同居(・別居)期間,扶養状況,②請求人及び被害者の年齢,関係性,③事案の重大性,悪質性等が総合考慮されて決まることになります。
交通事故によって大切な人を失ったとき,その人と密接な関係にあった人は,お金という形ではありますが,そのことによって受けた精神的ショックを補ってもらうことができます。
4 被害者が重篤な障害を負った場合
なお,被害者が死亡した場合だけでなく,重篤な障害を負ったにとどまる場合も,判例(最判昭和33年8月5日)は,「被害者が生命を侵害された場合にも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められる」場合には,固有の慰謝料を認めると判示しました。
つまり,被害者が死亡に至らない事案でも,傷害,被害者への影響の重大性や近親者に及ぼす精神的負担を考慮して,慰謝料請求することができる場合もあります。
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