1 評価損の一般論
交通事故で車に傷が付いた,あるいは故障が生じたような場合,そのことで車の市場価値が落ちてしまうことが考えられます。これは車両の経済的評価の低下,いわゆる評価損の問題です。
評価損が生じた場合,事故の相手方に対しては,実際にかかった修理費用のうち一定割合の賠償請求を行えます。その割合については,車両の登録後の経過期間,走行距離等の諸条件に左右されますが,裁判実務上は3割前後と考えられています。
2 いわゆる残価設定型自動車ローンの場合
近時,車両購入の際に利用される支払方法として,残価設定型自動車ローンがあります。これは新車の車両価格から将来の下取り価格として見込める金額を差し引いた残額について分割払いをするローン契約です。一定期間使用した後,使用者が①あらかじめ予定された支払額(残価)を支払うか,②車両を下取りに出すことで完済するかを選択することになります。
この残価設定型ローンの返済中は,販売業者またはローン信販会社が車両を所有するため,事故により車両に評価損が生じても,原則として使用者は損害賠償の請求ができません。
もっとも,交通事故発生前に、使用者が②車両を下取りに出してローンを完済することを選択していた事案で,使用者が評価損の賠償請求をすることを認めた裁判例があります(横浜地方裁判所平成23年11月30日判決)。下取りを選択していた場合,使用者は一定の下取り金額でローンの支払ができることを期待していたわけですから,常識に沿った裁判例と言えるでしょう。
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