交通事故(事故により被害者がケガを負ったケース)発生から解決までの流れを,時系列に沿って説明します。
1 事故発生直後
交通事故が発生した場合,必ず直ちに警察へ通報しなければなりません。
警察への通報がなければ,事故証明書が発行されず,保険金が支払われないことにもなりかねません。
ケガの程度がそれほど重くないことから,その場で示談して解決した方が簡単だとの考えもあるかもしれません。
しかし,事故直後は気づかなかった重大なケガが後から発覚することもあります。自分に過失がある事故であっても,必ず警察へ通報することをおすすめします。
2 治療の開始
⑴ 受診と検査の必要性
事故直後は興奮しているため,ケガを負っていることに気づかないこともあります。
また,時間の経過と共に徐々に症状が出てくるケースもあります(慢性硬膜下血腫など)。
そのため,自分では「大したケガではない。」と思っていたとしても,必ず,一度は病院を受診することをおすすめします。
特に,頭部へ衝撃を受けたような場合,必ず専門医を受診し,CTやMRIなどの検査を受けることが必要です。また,事故直後の検査では異常がなくても,その後頭痛や吐き気を感じた場合には直ちに再受診することが必要です。
⑵ 症状を正確に伝え,診療記録に記載してもらうことの重要性
後遺障害等級認定手続において,カルテなどの診療記録は非常に重要な資料となります。
特に,他覚所見(レントゲンやCTなどでの異常所見)が認められないむち打ちなどでは,事故直後から治療終了に至るまでの間,患者がどのような訴えをしていたか(痛みの部位,痛みの強さなど)が重視されます。
例えば,事故直後に痛みの訴えのなかった部位(腰)について,1か月経過した時点で初めてカルテに腰の痛みに関する記載が出てきたような場合,場合によっては,その腰の痛みは今回の交通事故とは関係がないものと判断される可能性があります。事故直後の興奮した状態で,首から肩周りにかけての痛みと腰周りの痛みを明確に区別して医師に伝えることは容易ではありません。
しかし,後遺障害等級認定手続や裁判においては,カルテ上,事故直後から痛みの訴えがないケガについては,後遺障害として認定されないどころか,そもそも事故と関係のないケガだと判断されることすらあるのです。
このような事態を回避するためには,受診の際,医師に対して症状を正確に伝え,さらに,その内容をしっかりとカルテに記載してもらうことが重要になります。
3 治療の終了
相手方保険会社が治療費を支払ってくれている場合(「一括対応」といいます),事故から一定期間が経過すると,保険会社から一括対応の打ち切りが打診されます。
つまり,「治療を継続するのは自由ですが,今後の治療費は一切支払いません。」ということを主張してくるのです。
保険会社も何の根拠もなくこのような打ち切りを行うわけではなく,主治医に対して今後の治療の見通しについて質問し(医療照会),その結果治療の必要性なしとの判断を行うことになります。
また,主治医が治療の必要性なし(これ以上の治療の効果は望めないという判断も含みます)と判断すれば,自賠責保険への請求や裁判においても,その後の治療費について,今回の交通事故に起因するものではないと判断される可能性が高くなります。
そこで,保険会社からの一括対応の打ち切りへの対応が重要になります。この点,治療中から弁護士に依頼することで,保険会社からの不当な一括対応打ち切りに対して弁護士が対応することが可能となります(「適切な後遺障害等級認定を受けるために」参照)。
4 後遺障害等級の認定
適切な後遺障害等級の認定を受けるためには,様々な活動が必要となります。
詳しくは,「適切な後遺障害等級認定を受けるために」で説明していますが,適切な後遺障害等級獲得のためには,後遺障害等級獲得に精通した弁護士への依頼が重要になります。
5 保険会社からの示談案の提案
⑴ 示談に際して弁護士に相談することの重要性
治療が終わり,後遺障害等級の認定まで終了すると,保険会社から示談案の提案が行われます。
保険会社から届いた示談に関する書面を見て,どのように感じるでしょうか。
「こんなにもらえるんだ!」と感じる方もいれば,「たったこれだけ?」と感じる方もいると思います。
いずれの感想を持ったとしても,一度は弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら,保険会社から提示を受けた示談金額が適正なものであるのか,一度,専門家の目からチェックを行う必要があるからです。保険会社も営利企業ですから,被害者の利益のためだけに活動しているわけではありません。保険会社から提示される金額は,裁判所が損害として認定する金額より低い金額であることがほとんどです。
⑵ 賠償金に関する3つの基準
一般的に,保険会社が支払う賠償金には,以下の3つの基準があると言われています。
① 被害者本人が交渉している段階での基準
② 弁護士が交渉している段階での基準
③ 裁判で認められる基準
必ずしも,全ての保険会社にこのような明確な基準があるとは限りませんが,これに近い運用基準があるものと思われます。保険会社から示談の提案を受けた被害者の相談を受けた際,保険会社からの提示額をうかがうと,我々弁護士が受任した後に提案される金額よりも,明らかに低水準であることが多いです。
一方で,弁護士が受任している場合であっても,示談で終了すれば早期に紛争を解決できる(訴訟になると,解決までに半年以上かかることもしばしばあります。)というメリットがあるため,提示される示談金の額は,裁判で認められる基準よりは低額となることが一般的です。
最終的には,時間がかかってでも少しでも多くの賠償金を獲得したいと考えるのか,裁判基準よりは低額であっても,早期に事件を解決することでスピーディに賠償金を手にし,事故のストレスから解放されたいと考えるのか,依頼者ご本人が決めることになります。
我々弁護士としては,示談で終了する場合と,訴訟を提起した場合のそれぞれのメリット・デメリットの見通しを伝えることになります。また,依頼者が示談による解決を希望する場合であっても,弁護士は,保険会社からの提案に対して少しでも上積みできるように交渉することになります。
6 訴訟
示談が成立しない場合,最終的には訴訟で解決することになります。
損害が大きい場合(死亡事故や重大な後遺障害が残った場合など)や過失割合についてお互いの主張に開きがある場合,訴訟まで行かざるを得ないケースが一定数以上あります。
訴訟に移行した場合,希望する判決を得るためには,法的に整理された主張を行い,主張する事実を立証するための証拠を提出することが必要です。やはり訴訟に至る場合には,弁護士への相談が不可欠になってくると思います。
7 最後に
これまでに説明したどの段階であっても,弁護士に依頼することは可能です。
ただし,弁護士への相談は早ければ早い方がよいと考えます。
そして,可能であれば,弁護士に紛争の解決を依頼すべきであると考えます。
その理由は以下のとおりです。
① どの時点においても,専門家である弁護士のアドバイスを受けておくことが被害者にとって有益である
② 弁護士に依頼することで,被害者本人が交渉するよりも,高水準の示談金の提案を受けることができる。
③ 弁護士への依頼により,相手方保険会社との交渉という精神的な負担から解消される
このようなメリットがあることから,交通事故被害者となってしまった場合,まずは弁護士に相談することをおすすめします。