交通事故でご家族を亡くされたご遺族から弁護士が依頼を受けるとき,弁護士に何ができるでしょうか。
<民事手続に関して>
1.事故態様に関する立証の準備
加害者側と遺族側で事故態様の捉え方に相違点ないし争いがある場合は資料や証拠を集めて,それらに基づいた主張を行うことが肝要です。特に刑事記録を取り寄せて,内容を綿密に検討する必要があります。
死亡事故の場合,ご本人は亡くなられているため,事故に至る経緯や事故の状況を説明する人がいません。目撃者がいない場合,加害者だけが事件を目撃しているということもありえますが,一般的に加害者の説明を全面的に信用することは難しいでしょう。刑事記録を検討し,実況見分調書の内容と,加害者や目撃者の説明が矛盾していないかなどにつき,弁護士に検討してもらうことが重要になります。
交通事故に関する書類の取り寄せは弁護士に依頼し,検察官に対して刑事記録の閲覧,謄写(コピー)を申請するほか,弁護士法23条2に基づく弁護士会照会などの手続をとることも可能です。
刑事事件が裁判になった場合,確定している場合と確定していない場合で,取り寄せが可能な記録には違いがあります。また,不起訴になった場合も取り寄せが可能な記録が違ってきます。弁護士は刑事事件の進行を確認し,適切な書類を取り寄せます。
2.慰謝料・葬儀費用の立証
死亡事故の場合,死亡事故ではないケースと同様に必要な資料を弁護士の助言を受けながら入手し,逸失利益や慰謝料の算定を行った上で請求することになります。
ご遺族自身が被る精神的苦痛については,ご本人からは独立した固有の慰謝料請求が認められます(民法710条)。ご遺族の心情を弁護士が聴き取り,陳述書の形にまとめ,証拠化します。生前にご本人から介護や介助を受けていた同居家族に関して一般的な水準を超えた慰謝料が認められるケースがあります。陳述書だけでなく,写真や動画を利用するなど,様々な立証上の工夫が考えられるところです。
葬儀費用についても実務上一定の水準がありますが,ご本人の生前の社会的地位や交友関係の広さなどから水準以上の費用を支出した場合でも,生前の事情を立証することができれば,水準以上の賠償を勝ち取ることも可能です。
<刑事手続に関して>
通常,ご遺族は,刑事裁判で適切な重さの刑を加害者に科してもらうことを希望されます。
死亡事故は,過失運転致死罪という犯罪となり,遺族は被害者参加制度に基づいて裁判手続に関与することが可能です。
具体的には,公判期日への出席のほか,検察官の公判廷での活動に関して意見を述べ,説明を受けること,被告人への質問,刑の重さ(量刑)などについて意見を陳述することができます。もっとも,家族を亡くされたご遺族は,精神的なショックからご自分だけでこれらの関与を行う事は負担が大きいでしょう。弁護士に依頼して,代理人として代わりに出席してもらう,あるいは裁判への出席や検察官との打合せへの同行をしてもらうなどして,参加制度を有効に利用することが可能です。